T様邸は一見するとそれほど大きな被害は出ていないように思えるのですが、実際には家全体が大きく傾いてしまっていました。約10m幅のお宅で、左右の傾きが19cmにも達していたのです。
これがどの程度の傾きかご理解いただくのは難しいのですが、国土交通省は欠陥住宅への対応基準として6/1000以下の傾きに収めるように公示しています。これは、一般的に人間はこの程度の傾きがあると傾いていることを認識できるといわれていることから、傾いていると知覚できない水準の住宅を提供することを求めるための基準となっています。
なお、この傾きが8/1000を超えると苦痛を感じるようになり、10/1000以上となると気分が悪くなるなどの健康被害が生じるようになるといわれています。
T様宅でも家にいると気分が悪くなるなどの問題が発生していましたので、地震発生直後に応急措置として部屋の傾きを補正するための床板張りを実施させていただきました。その際の傾き方は、ある部屋を例に取ると約3.6m幅の部屋の傾きを補正するために4cm幅の木材を使用してちょうど良い程度でしたので、11/1000程度の傾きがあったことになります。部屋によって傾きの幅は若干異なりますが、どの場所でも概ね10/1000以上の傾きがありました。
本来ならばその時点で揚屋工事を実施できれば良かったのですが、地震の活動が活発化していたことから更なるダメージが予想されたこと、震災直後の資材不足による部材の入手困難などがあった一方で、上述のような健康被害が発生していたことから、暫定的に床板を貼って傾きを補正することで対応していました。
今回は部材などの目処が立ったことから、改めて家全体の傾きを修正するべく揚屋工事を実施させていただくことが出来ました。ここでは貴重な揚屋工事の実施例として、この工事についてご紹介させていただきます。